講演会・シンポジウム

News2013カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル報告会 ≪講演レポート≫

2013カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル報告会
講演レポート

9月30日(月)CM合同研究会主催による
2013カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル報告会が開催された。
今回は本年度のカンヌ審査員を務められたお二人の講演と対談を実施。
200名の参加者があった。

 

 

 


講演レポート

第1講 鏡 明 氏 (ドリル エグゼクティブアドバイザー)
14:00〜15:00

フィルム部門

3000から2に至るまで
 今年のカンヌは60周年で特別な年だった。フィルム部門の審査員は24人で、審査委員長であるBBHのジョン・ヘガティ卿をはじめ、ゴールド以上の受賞歴がある人達ばかり。審査にあたり「全世界のメディア費用の2/5は未だTVに使われている。TVの力を再認識してもらいたい」と語ったヘガティの言葉が印象的だった。
 今年の審査基準は「クリエイティビティとWOW」。つまり見ている人が感心するアイデアがあり、素直に感嘆できるものという意味だ。フィルム部門はTVスクリーンのAカテゴリー、ウェブ系のBカテゴリーがあり、約3000本の応募から予備審査で2000本に絞り、現場で280のショートリスト作品を丹念に見て厳選。最終的に2本のグランプリに至った。予備審査は予備知識や全体の感覚を掴むという点で意味があった。

Aカテゴリーグランプリ:Metro Trains「Dumb Ways To Die」
Bカテゴリーグランプリ:Inter+Toshiba「Beauty Inside」
 「Dumb Ways To Die」は史上初、5つのグランプリを獲得。「Beauty Inside」は視聴者参加型のしくみと、ストーリーテリングの高さが評価された。へガティはグランプリ作品について「1本はTVの力を示したもの、1本は未来を示したもの」と評した。
 RAM「God Made A Farmer」 
 評点ではグランプリ作品に次ぐ3位、私個人としても素晴らしい作品だと思ったが、過去作品のリメイクだったので結果的にはショートリストにも入らなかった。クリエイティビティとは唯一無二のアイデアでなければならない。今年の審査に於けるクリエイティビティの意味をを象徴した結論だった。

目立ったもの、半ダース+1
 今年はきわめてまっとうな作品が多かった。それは伝統へ回帰しているわけではなく、TVへのある種の危機感が漂う中、自分達が自信を持って推せる作品を選んだ結果だったと思う。作品の傾向として目立ったものを紹介していこう。
① いい話
Hovis「British Farmers」銀賞
農家のハートウォーミングな家族の絆を素直に描いた作品。見終わった後にいい気分になる、読後感のようなものが大切にされている点がよかった。

② ノスタルジー
John Lewis「Never Knowingly Undersold」銅賞
1920年代と現代、男女の恋愛を二画面に分けて表現。恋愛のように時代を超えても変わらないという企業のメッセージが込められている。二画面の作品は多かったが、これが一番巧くできていた。

③ かわいい
私が入社した当時、やってはいけない3B「Baby Beauty Beast」というのを教えられた。子供や動物など可愛さで人を引きつけるとアイデアを目立たなくさせるからだ。今年は3B作品が非常に目立った。
IKEA「Play With My Friend」金賞
子供がぬいぐるみ、ロボットなどと一緒にパーティーの準備をする。友達のような親子関係を理想とし、そんな家族に家具を提供するのがIKEAというメッセージだという。
Evian「Baby&Me」銀賞
ショーウインドウに映った自分そっくりの赤ちゃんがダンスをする。ブレイクダンスをする赤ちゃんが話題になったCMのシリーズ作。

④ 見えないものを
Carlton Draught「Beer Chase」金賞
銀行強盗と警官、カーチェイス張りの逃亡劇をビール片手に走って逃げる男達が演じる。ある種の定番という仕立てだが、銀行強盗より飲酒運転の方が重罪と思わせられるところが面白い。
Land Rover「Parkour Roam Free Video」銅賞
ランドローバーの走行性を4人の男性が走ったり跳んだりすることで表現。車が一度も登場しないこと、それを許した広告主に対する評価があった。クラフトとしても素晴らしく、撮影部門で金賞を受賞している。
Oreo「Life Raft Oreo」金賞
クリームが美味しいか、クッキーが美味しいかというキャンペーンCMシリーズ。今年10周年のオレオは他のCMでも賞を取っていた。
⑤ミニマル
Southern Comfort「Whatever’s Comfortable」金賞
太った中年男性がビーチを歩くだけの映像。何も起こらない。これまでのカンヌ的な表現アイデイアとは異なっている。これが評価されたのは海辺で飲むウイスキーという新しい飲み方の提案性、そして何気なく見える男と浜辺の光景の細部に至るこだわり、音楽といった表現上の完成度の高さだった。
Nike「Find Your Greatness」金賞
映像としては太った少年が苦しそうに走っているだけ。五輪のスーパースターだけでなく、挑戦する君もGreatnessだというコピーの素晴らしさが受賞に大きく関わった。両作品ともW+Kだったが、ストイックにシンプルな表現にこだわってみせたところが、逆に新鮮さを感じさせた。

⑥リコンストラクション
今まであるアイデアを使い直すという考え方。
AXE「Fear No Susan Glenn 」金賞
AXE があると憧れの女性も恐くないというメッセージは男の子のインサイトによく迫っている。AXEをつけると女の子が寄ってくるというこれまでのアプローチから脱却。新たなアイデアが評価された。
smart fortwo「Offroad」金賞
オフロードで走る無様なスマートの映像を通し、街の外では活躍しないことをメッセージ。勇気のいるアイデアだが、スマートへの好感が持てるCMに仕上がっている。
BGH「Summer Hater」銅賞
サイコサスペンスタッチのエアコンCM。心地よい夏ではなく、夏はサイテーという切り口を変えたメッセージが斬新だった。
Guiness「Made Of More」銀賞
不思議な雲を主人公にして、ギネスの泡の持つ意味と夢をビジュアライズして見せた。BBHから代わって新エージェンシーが手がけた。過去の名作の中でのリコンストラクションは極めて難しいが、視点を商品そのものに絞る事によって新たな表現になった。良い仕事だと思う。

⑦インサイト
Dove「Camera Shy」銀賞
カメラを向けられて思わず逃げる女性達というよく見かける光景から、女性の自信の欠如というインサイトに至った作品。が、次のキャンペーンと比較するとそのインサイトの弱点が見える。それが銀と金の差になった。
Dove「Real Beauty Sketches」金賞
96%の女性が、実際の自分よりも美しくないと思っているという調査を基に創られたCM。グランプリ候補にもなったが、手法として作為が見えすぎるという意見が強く出て、金賞にとどまった。ドキュメンタリーという方法の難しさを感じさせる。
 ムラタ漢方「梅花五福丸」は日本から唯一シルバーに選ばれた作品。全アジアの中でもフィルム部門の受賞はこの作品だけ。関西のローカルなモードがグローバルでも十分通用すると思わせる作品だった。
なお、今年は日本だけではなくアジアの受賞が極めて少なかった。その原因は、経済、政治、社会というように多岐にわたるが、その中での銀賞という価値は大きい。
 Channel 4「The Paralympic Games on 4」はクラフト部門のグランプリ作品。パラリンピックの表現に新たな世界をもたらした。パフォーマンスだけだとナイキがやったものと変わらないが、なぜ彼らがハンディキャップを抱えるようになったのか、その原因を映像で示した事によって、かつてない感動をもたらした。クラフトだけではなく、フイルムカテゴリーでも金賞になった。大変素晴らしい作品だったと思う。

280に生き残るために
 ショートリストに残るためのポイントを次のようにまとめてみた。
1. 歴史とクラフト…
2. ストーリーテリング
3. ボーダーレス(広告主とエージェンシー、メディア間などの)
4. 世のため、人のため
5. チャンスがないところにチャンスがある(TVは説得のメディアから共感を得るメディアに移り変わっている)
 我々の仕事はクリエイティビティがすべて。それをもう一度考え直して欲しい。いろんなものを見て、自分がベストと信じるものを創っていくことが次を生むことになると思う。

 

第2講 古川 裕也 氏 (電通 コミュニケーション・デザイン・センター長 エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター)
15:05〜16:05

チタニュウム&インテグレーテッド部門

終始穏やかに進んだ審査 
 他の部門と違って、チタニウム&インテグレーテッドの審査員はカンヌのテリー・サベージ会長から直接指名される。審査員は委員長のワイデン+ケネディのダン・ワイデンをはじめ、カンヌライオンズの常連ばかりで、もう今さらライオンもらってもな、という人々。そのせいで、審査は終始穏やかに進んだ。
 今年は483の応募があった。チタニウムはジャンルを問わず今までに見た事もないアイデアで歴史に残るもの、インテグレーテッドは3つ以上のメディアを使った統合キャンペーンと定義される。最初に部門の区別なく(というところに非常に違和感があるのだが)30本のショートリストを選出。そこからチタニウムかインテグレーテッドかを選別し、それぞれのグランプリが選ばれる。

チタニウムグランプリ:Dove「Real Beauty Sketch」
インテグレーテッドグランプリ:Metro Trains「Dumb ways to die」
 この2本が最初からダントツで、審査もスムーズだった。メディアの使い方に、より工夫があったので「Dumb Ways To Die」がインテグレーテッド、「Real Beauty Sketch」がチタニウムに割り振られた感じ。
AXE「Susan Glenn」インテグレーテッド銀賞
 これまでの路線から一転してひとりの男性のインサイトへ知的にアプローチし、ブランドの歴史を変えたことが評価された。
 昔はメディアを複数使って統合するということが斬新かつ重要だったが、現在はブランドのコアアイデアがあって全体のプランを構築していくのが当たり前。おそらくインテグレーテッド部門は歴史的役割を終えたと思う。チタニウムだけの方がわかりやすいし、プレザンスも保てると思う。
 ダン・ワイデンの掲げたチタニウムのクライテリアでは、クライアントとエージェンシーが一緒になって世の中の顧客にServeすると表されている点が新しいと思った。

ひたすらFor Goodの戦い
サムスン生命保険「Bridge Of Life」チタニウム
 自殺の名所になっている橋に、サムスン生命保険が自殺を思い留ませる仕掛けを作り、自殺率が77%に減少したというもの。審査員の2/3以上の票を獲得したのはグランプリ作品だけで、この作品も再審査で審査員の推薦によって選ばれた。
マケドニア政府「10 Meters Apart」
 イスラム教徒とキリスト教徒の間で民族対立が繰り返されてきたマケドニア。10メートルの近距離で信者が一緒に祈りを捧げる日「Co Prayer」が設けられたという内容。昨年の「Small Business Saturday」同様、国家の日に制定されたことが評価された。
 今年のチタニウムはひたすらFor Goodをめぐる戦いだった。
 

勝敗を決めたのはゴール設定の高さ
 チタニウムの勝敗を分けた決定的ポイントはゴール設定の高さと、広い意味でのクラフトのレベル。マスメディアの時代から比較すると多様な方法論を持つようになったことで、ブランド認知やプロモーションだけでなく、世の中をいい方向に向かわせるような高いゴール設定ができるようになった。
 日本からは脳波を認識して耳が動く「necomimi」や、3Dプロジェクションマッピングを使った「Tokyo City Symphony」が出品されていたが、チタニウムでは「面白い」「美しい」だけでは評価されない。そのアイデアが世の中をどうよくしたかが提示されている必要がある。今回日本の作品が惨敗したのは、ひとえに、ゴール設定が高くなかったためである。
「Thunderclap」イノベーションライオン金賞
 FBやツイッターで一斉発信するサービス「Thunderclap」。
 今年からイノベーションライオンが新設された。「広告以外の革新的アイデアで世の中をよくするもの」が、クライテリア。今まで某たちの仕事はすべて、まず課題がありそれを解決するアイデアを競い合ってきた。けれど、この新しいカテゴリーは、アイデアが先にあって、そのアイデアを世の中に役立てようという動き。もはや課題解決だけでなく、アイデアが課題に先立つカテゴリーができたことは画期的だと思う。
WFF「The Ant Rally」グランプリ・フォー・グッド
 シリアスな問題をユーモラスに捉えた秀作。ゴールド以上の作品から選ばれるグランプリ・フォー・グッドに輝いた。なぜかチタニウムにはノミネートされていなかったが、もしノミネートされていればインテグレーテッドがDumb Ways To Die、チタニウムがこの作品だったのではないか。それくらいみんなの心を掴んだ作品だった。

カンヌ60年の歴史と未来
 カンヌ60年の歴史は、目的と手段を高めてきた戦いだったと言える。1954〜95年は、要はTV-CMのアイデアの善し悪しを決めるフェスティバルだった。
 〜2010年は、目的はブランディングやプロモーションだが方法論、つまりメディアが多様化。既存のメディアに加え、地球上のすべてがメディアになった。
 〜2013年はFor Goodの方向へ。手段が強化されると、できることのレベルも上がる。種類も増える。つまり、「ゴール」が拡張したのだ。その結果、ブランドや商品の課題解決という次元から、社会的・人類的な課題解決・For Goodへとゴール設定も高まってきた。というか、いわば、上げざるを得なくなってきたのだ。

 AよりBの方がいいという相対的なブランディングはもう効果がなくなってきている。これからはブランドが実現できる普遍的価値の発見と共有が重要になる。そのブランドが世の中にいちばん貢献できることは何か。どういう風に人を幸せにできるのか。そもそも何のためにこの世に存在してるのか。それを自ら証明することがブランドに求められている。すべてのブランディング活動がFor Goodに結びついていなくてはならない。最も成功した例が、昨年のP&G「Best Job」。すべてのお母さんを元気にするブランドと自ら定義した。そのためにこのブランドは存在している、と。
 例えば今回のグランプリ作品Dove(基礎化粧品)の場合、「すべての女性は美しい」ということを証明するために存在している、というのがブランドの存在意義だ。
 広告のクリエイティビティは世界をよくする仕事と定義されるようになりつつあると思う。モノを売るためにもこれをふまえていないと世の中に認めてもらえない。言い換えるとゴール設定の高さを競い合うことになる。このように、時代と共に広告ができることを拡張していく、それが21世紀にアドヴァタイジング・インダストリーが存在している意味だと思う。

第3講 鏡明氏と古川裕也氏、対談
16:15
~16:45

鏡:古川さんの話で世界を良くする仕事という指摘がありましたが、それとクリエイティビティはどういう関係にあるんでしょうか?
古川:テリー・サベージとも話をしたんですが、広告業界のクリエイティビティを広告だけに使うのはもったいないということ。だからすべての活動が世の中を良くするために活かすことが、今求められていることなんだと思う。
鏡:これまでのTV-CM制作活動とのギャップを感じませんか。
古川:昔は面白いCMを創ることを考えていたけど、今は最も高いゴール設定は何だろうと考えるようになった。それには最初にゴール設定の高さをクライアントと共有することが大事ですね。
鏡:今年日本はカンヌで成績が悪かったんですが、CM創りと関連性はありますか?
古川:チタニウムは特殊で、例えばフィルムクラフトとは相当クライテリアが違うが、コアアイデアを突き詰めた作品ほどフィルムも良くなりやすいと思う。
鏡:昨年古川さんが制作した九州新幹線のCMは素晴らしかったが、TV-CMとしてはブロンズだった。
古川:キャンペーンとしては評価が高かったが、何をもってCMのアイデアとみなすかという基準がかなり違う。あのCMはイベントのリポート。だからアイデアを入れないというディレクションだった。そのフレームを認めてくれる人と、フィルム単体では手を振るだけだと評価しない人に分かれた。
鏡:日本人がカンヌに入る意義はどこにあると思う?
古川:グローバルの場合オンエアでの評価がわからないので、アワード以外で能力の証明しようがない。海外ではカンヌに入賞して初めて世界に登録される。日本も開国してしまった以上しかたがない。
鏡:今はグローバルネットワークで仕事をしている人が多いので、海外の人もみんな日本のことをよく研究している。だからこそ日本人の不振は深刻かなと。
古川:情報過疎地だから弱いという言い訳はもう通じない。
確かに7,8年前はスクリーニングの際に日本の情報を与えると評価は変わった。
鏡:梅花五福丸のCMでも、みんな日本の高齢化社会は理解していたね。
古川:「Tokyo City Symphony」でもただきれいというだけではなく、結果的にブランドと世の中にどんな変化をもたらすかまでアイデアのコンテクストに組み入れられていなければならない。
鏡:necomimiも面白いし、日本独自の技術という気もする。でも技術がすごさを提示されているだけでは誰も票を入れてくれない。
古川:「これを医療用に使う予定はないのか?」という質問にも「一切ありません」と明言していた(笑)。テクノロジーとしてすごいとしても、それが例えば認知症の治療に役立つというのであれば評価はまた変わっていた。
鏡:ちなみに今年のフィルムで古川さんが一番気に入っている作品はどれ?
古川:少数意見だと思うけど、僕はギネスが一番いい。
鏡:ギネスは賛否両論だったけど、視点を変えたという意味では評価された。
古川:ムービーじゃないとできないアイデア。そういうものを応援したくなる。
鏡:今まで素晴らしいブランドの歴史を作ってきた中で、方法論を変えたらどうなるかとチャレンジしたいい見本ですね。

 


 

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