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大阪広告協会賞 受賞企業インタビュー

第9回に登場いただくのは、株式会社朝日新聞社大阪本社。
新聞をめぐる現状、デジタル時代の新聞の可能性や新聞社のブランディングなどについて、お伺いしました。

株式会社朝日新聞社 大阪本社 メディアビジネス局長 山下博嗣さま

企業や社会の課題解決を目指す
総合メディア企業へ

株式会社朝日新聞社大阪本社
メディアビジネス局長 山下博嗣さま
1983年株式会社朝日新聞社入社。大阪本社広告局配属。
2003年大阪本社広告第3部長、2006年大阪本社広告管理部長、
2008年大阪本社広告局長補佐、2011年東京本社広告局長補佐などを経て、
2013年より大阪本社広告局長。2016年5月、組織変更により
大阪本社メディアビジネス局長に就任。

新聞社の持つ資産を最大限に活かし
デジタル時代の新たなメディアビジネスを目指す

伊吹先生 まずは山下さんが局長を務めておられる「メディアビジネス局」の仕事内容についてお伺いします。

山下局長 デジタル化、若者の活字離れなどの周辺状況の変化を背景に、新聞の部数は減少傾向にあり、それに伴い新聞広告の売り上げも減っています。この状況を踏まえて本年5月に、部門横断の力を結集した統合営業組織「総合プロデュース室」を新設し、同時に従来の広告局をメディアビジネス局に改称し、新聞広告にとどまらず、デジタル商品や文化・スポーツ・教育事業、出版、イベント、テレビなど本社・グループ企業の資産を活用した様々な商品をワンストップで扱い、統合的なコミュニケーションプラン提供を目的とする組織に変わりました。新聞にプラスアルファを組み合わせていくことで、新聞への門戸を広げるとともに、社内の様々な人材を集めてクライアント企業の課題解決を図れる体制を整えようということで立ち上げた部署です。雑誌「AERA」の元編集長や経済部の元財界担当記者といった様々なジャンルの人間が所属して、宣伝ルート以外の情報網も駆使し、お客様の抱える課題解決に向けて情報収集・提案を進めています。新規事業の開発、映画・演劇などコンテンツ系への積極的・戦略的な出資などにも力を入れる方針です。
これは、当社の経営陣が「総合メディア企業」を目指そう、という方針を1月に打ち出したことを背景にしていますが、販売部数も残念ながら下がり、広告の売り上げも減少が続く中で、それ以外の部分で如何に稼ぐかという成長戦略とそれによる経営基盤の強化を目的としているということですね。

伊吹先生 御社の売り上げ構成に占める新聞・出版販売以外の比率はどんな状況でしょうか。

山下局長 新聞出版以外には不動産賃貸事業や文化事業、電波事業、その他とありますが、まだまだ新聞出版の比率が高く、残りを合わせても全体の1割程度です。将来を見据えて新聞出版の収入を維持しながら、それ以外のウェイトを大きくしていくことが喫緊の課題です。

伊吹先生 新聞業界の現状打破はそう簡単ではないぞ、ということが分かりました。特に、鍵を握るのがインターネット関係ではないかと思うのですが、御社の状況を教えていただけますか。

山下局長 当社は、インターネットのニュースサイトの運営を一般紙で最も早くスタートしました。無料会員を含めると会員数は約250万人ですが、若い人を中心に活字を読む習慣が減り、紙の新聞の部数に匹敵するぐらいのデジタルの会員数の獲得には至っていません。そうなると、購読媒体としてニュースサイトで稼げるかというと、疑問です。サムライトというオウンドメディアやネイティヴ・アドといったデジタル広告商品を企画・制作している会社と4月に提携したので、インターネットテクノロジーの先端のノウハウを活かし、足らざる部分をフォローできる体制を整えました。

伊吹先生 記事が同じでも、媒体・デバイスが異なれば、見られ方や閲読層が変わってくると思うのですが、広告媒体として工夫しているところはありますか。

山下局長 最初に「朝日新聞デジタル」の前身の「アサヒ・コム」がスタートした時点では、ニュースは行ごとに表示しておりましたが、「非常に読みにくい」「新聞の持つ一覧性が損なわれている」という声があり、紙面イメージのまま閲読できる仕組み(紙面ビューワー)も導入しました。記事の見出しについても、紙とデジタルでは反応が良い見出しが違います。必ずしも新聞そのものをデジタルに置き換えたらいいわけではありません。例えば、反響を呼んだ「子どもと貧困」のシリーズなどは、むしろデジタルで読まれて拡散し、記事と同じような悩みを抱える若い読者に共感を得られたと思います。今は、デジタル層を意識した記事作りや見出しの工夫、ネイティヴ・アドや特集サイトなど広告面の仕組みも平行して構築し、新聞の良さとデジタルの利便性の両面での提案ができる体制を整えました。

伊吹先生 確かに新聞は読者層が高齢化しているけれど、マスとしてはしっかり確保できているというイメージを持っているのですが、どうでしょうか。

山下局長 そうですね。弊紙はこのような状況下でも約650万の読者に購読いただいています。50代以上のいわゆるアクティブシニアがいる状況の中では、新聞そのものを使ってできるアプローチはまだまだあります。アクティブシニア対象の紙面と連動した「Reライフ」というイベントでは、新聞の告知だけでしたが、予想を超える数の応募がありました。特定の世代には新聞だけの展開でも通用する部分があると思います。他にも、映画の試写会や講演会などの参加者募集についても、新聞による反響はあります。
また、旅行広告も同年代には反応が良いようです。朝日読者は、特にヨーロッパを始め、海外に強いと言われておりますし、「四国八十八ケ所巡り」など1回あたりの旅費が安価でも繰り返し参加するような国内旅行も根強い人気を誇っています。常に行動を起こすための情報を求めている読者が多いように感じます。

伊吹先生 広告を掲載する時に、記事部分を連動して企画を組んだりされるのですか。

山下局長 はい。広告に合わせて特集を組むなどの方法は昔から行っていますが、今後はそれに加えてオウンドメディアとも連動させ、デジタル上で展開も組み合わせたやり方をどんどん仕掛けようと考えています。

若い世代の新聞離れに
デジタルで接点を増やす

伊吹先生 50代以上には変わらず影響力があるという話でしたが、一方で若い世代に目を向けると、新聞離れが現実です。特に広告と絡めて、若い世代のつかまえ方というのは、どのように工夫されているのでしょうか。

山下局長 当社では「未来メディアプロジェクト」を立ち上げ、その一環で「未来メディア塾」という当社の記者と若い方々が社会課題に向き合い、その解決方法を共に考えていくようなイベントなどを行っています。若い方々に自分の生きている社会に問題意識を持っていただくことによって新聞購読につながる、と考えます。

伊吹先生 私の周りを見ても、問題意識を持っている若い人の新聞の閲読率は決して低いように感じません。ただし、そうではないグループの人たちは積極的に新聞を読むことはしませんが、ニュースに接していないということでなくて、フェイスブックで流れている情報でニュースを知ったり、ニュース系のアプリなどで見ているようです。このように新聞以外の媒体からニュースを仕入れている人たちに記事をタダ見させず、広告収入に結び付けていくためにやっていることはありますか。

山下局長 そういった方たちはタブレットやスマホで情報にアクセスしていると思うので、先ほど言ったようなオウンドメディアを使いながら窓口を広げていく、という感じでしょうか。若い人とのタッチポイントを増やすという点で言えば、就活関連や入試関連の記事やイベント、サッカー・吹奏楽などの事業にも力を入れています。また、就活時に新聞を取った人の継続率は高いとのデータがあるので、そこをビジネスポイントとしてとらえて大学にもアプローチしています。

伊吹先生 オウンドメディア制作会社との提携・運営も重要ですが、一方で社内でも人材教育などいろいろテコ入れしていかなければならないのだと思います。人材育成のやり方で以前と何か変わったところはありますか。

山下局長 相当変わりましたね。私は1983年に入社したのですが、その頃は新聞がまだまだメディアの中心にいたので、新聞のことだけを知っていればよかった。でも今は、新聞は新聞で良いところを訴えていくという部分は押さえながら、プラスアルファも教えていかないといけません。例えば、新聞の企画に合わせてBSで番組を作る場合、電波の知識もないとなかなか話が進みません。メディアビジネス局としては、デジタルの知識をある程度均質化しようということで、今春から初級の「ウェブ解析士」の資格取得を推奨するようにしました。そうすると、若い人は元々ITリテラシーが高いので積極的に勉強して取り組むのですが、現状ではまだまだ広告収入のメインは紙媒体なので、デジタルだけに特化すると一生懸命時間を費やしている割には売り上げに結びつかないというジレンマが生じてしまいます。両方を良さを理解し、よく売れる仕掛けを考えていかないといけないと思っています。

大阪発祥の全国紙として
世界を向いて仕事をしたい

伊吹先生 同業他社と比べた時の御社の特徴はなんでしょうか。

山下局長 これまで「調査報道」に関して特に力を入れており、成果も出ている点において優れていると思っていましたし、強みは「信頼できる」ということと、知識層・高所得者層に読まれているというところです。また、朝日新聞は「左寄り」、「決めつけ」と言われる部分もあったので、フォーラム面を創設し、いろいろな考えや意見を紹介することで読者が自分自身の考えを決めるための参考にしていただくような紙面も増やしました。
あとは当社が大阪発祥の企業ということで、全国紙を標榜しつつ、大阪(関西の)「偉大なる地元紙」というようなポジションも目指しています。地域一番紙であることにこだわりたい。そのために、洗練された知識層が読む新聞ということに加え、親しみやすさも出していこうと考えており、特に大阪本社版は夕刊を中心に独自の企画で親しみやすさを強調しています。

伊吹先生 ブランディングについての考えはいかがでしょうか。

山下局長 「ブランド推進本部」という部署が東京にあり、ビジネス系出身者が本部長としてブランディングを行っています。以前は、「権力を監視し、世の中の表に出ない事象を掘り出して世間に知らせる」というジャーナリズムファーストの仕事をしていれば、ブランド価値も上がっていたのですが、現在は時代が多様化して状況が変わっています。ですから、自分たちが良いと思ったものを出すだけでなく、いろいろな声に耳を傾けて、読者が本当に求めている情報や記事を提供する。「ともに考え、ともにつくるメディア」を目指して「公正な姿勢で事実に向き合う」、「多様な言論を尊重する」、「課題の解決策をともに探る」を3つの柱にブランドの再構築に向けて努力しているところです。

伊吹先生 なるほど。
これまでインタビューしてきた大阪広告協会の企業の中で、多くの方が「東京を見るのではなく世界を見よう」とおっしゃっているのですが、そのことについてはどう思われますか。

山下局長 同感です。大阪以上に京都の企業は世界を向いて仕事をしているところが多いと思います。
世界を見るという意味では一歩先を行っている京都の企業の考え方からは学ぶところは多いのでは、と思います。

伊吹先生 京都だけでなく、大阪、神戸など世界と伍していける都市が複数あるのは関西の強みですね。

山下局長 昔から「関西は一つ」というより「一つひとつ」と言われます。京都や奈良などの魅力的な観光地もあり、加えてそれぞれの都市の魅力をアピールしながら関西が一体となって取り組めばまだまだ発展の余地はあると思っています。2019年のラグビーW杯、2020年の東京五輪に続いて関西ではワールドマスターズゲームスが開催されます。また2025年の大阪万博に向けてIR構想も動き出します。このタイミングをしっかり捉え、大阪復権にむけて協力していきたいと思います。
また、関西の気質で言えば、当社が非常に困難だった時期に、昔からお付き合いくださっている関係先に励ましていただき、助けていただいたことが記憶に新しいです。世間体から広告を引き上げる、ということも一切されませんでした。広告協会の繋がりの深さや、皆で一緒に盛り上がろうという考え方は東京にはない強みだと感じています。

伊吹先生 本日は、どうもありがとうございました。

山下局長 ありがとうございました。